シェークスピアのはるか400年前、
一人の女性が世界で初めての長編小説を書き記しました。
紫式部、「源氏物語」。
「光の君」と呼ばれる光源氏と
多くの女性との関係と心の機微を描いた長編小説。
紫式部が描く女性の見事なまでの人物造形力と心理描写の巧みさ、
そして、それぞれがしたためる和歌の見事さ。
それゆえに、文学における女性美を結実させ、
人間関係をあざやかに描いた日本文学の至宝として
そしてまた、日本文学の源流として、
のちの多くの文学者を魅了し、現代語訳を発刊させました。
瀬戸内寂聴、田辺聖子、谷崎潤一郎、与謝野晶子など。
谷崎潤一郎の「細雪」「春琴抄」で描かれる耽美的ともいえる女性美は
源氏物語の影響にあるといっても過言ではありません。
さて、この「源氏物語」の中で、佐賀の唐津が登場します。
「玉鬘」の章。
のちに光源氏の養女となる玉鬘が幼少期に過ごしたのが佐賀の唐津。
唐津は当時から唐へと連なる朝鮮半島への出航地として、
また、風光明媚な土地としてしられていたのでしょう。
唐津の鏡山のふもとにある鏡神社は藤原氏を祀る神社でもあります。
幼少期を唐津で過ごした玉鬘は予定されていた肥後(熊本)の豪族との婚姻をいやがり、光源氏のもとに逃げ込み養女となります。
かつて光源氏が愛した女性「夕顔」の娘とあって、
その美少女ぶりはさながら今でいうアイドルなみだったようで
多くの男性から言い寄られます。
男性から言い寄られた際の「玉鬘」のウィットにとんだかわいらしさといったら!!!
巧みな和歌を詠むことで男性の誘いを上手にかわしていきます。
そしてなんと、養父である光源氏でさえも玉鬘に言い寄ります。
光源氏は玉鬘にこのような和歌を贈ります。
かがり火に たちそう恋の 煙<けぶり>こそ 世には絶えせぬ 炎なりけり
(かがり火とともに立ち上る煙こそ、いつまでも消えない私の恋の炎です)
それへの玉鬘の返歌がまたウィットに富んでいてかわいらしい!!
行方なき 空に消ちてよ かがり火の たよりにたぐう 煙<けぶり>とならば
(その恋は果てしない空に消してしまってください。篝火とともに立ち上る煙と言うならば)
この玉鬘の頭の良さ、そして相手を傷つけないやさしさと少女の純粋さ。
「源氏物語」の魅力はこのような人物造形とそれぞれの人物像から詠まれる和歌の見事さとそこから読み取れる心の機微、こういったところにあります。
NHK大河ドラマ「光る君へ」を機会にぜひ「源氏物語」もご一読ください。