著者は加害者家族支援活動を行っている阿部恭子さん。
彼女の近著「息子が人を殺しました」は現在、読んでいるところだが、加害者家族の問題をクローズアップできたのは阿部さんの活動に負うところが大きい。
加害者家族支援の初動活動はマスコミバッシング、世間からの批判からの保護だろう。
犯罪者を生んだ家庭ということで、正確な事実検証もなく、好奇心と憶測による「悪意のある噂話」の延長線上にある批判、「犯罪の原因は家庭環境にある」という批判に加害者家族はさらされる。
また、加害者家族もまた、身内が罪を犯したことに対する世間への負い目と自責の念に駆られ、死への誘惑にかられることもあるそうだ。
加害者家族の支援とはそうした崩壊の危機にある家族のメンタルな支援も含まれるそうだが、そうしたメンタルな支援活動を行っていく過程で、身内が犯罪にいたってしまったその原因がこれまでの家族の日常に小さく巣食っていた「闇」、「小さなブラックホール」がいつしか犯罪という大きな闇につながってしまった、ということに家族が気づかされることもある。
どこの家庭にでもあるような小さな闇、ちょっとした傷、それが心を蝕み、いつしか大きな闇となる、あるいはその小さなブラックホールが全く別の大きな闇に吸い込まれてしまう、というのが犯罪にいたるプロセスのように見える。
阿部さんもおそらくそのように実感しているであろう。
それゆえ、犯罪者、加害者は一般の人からかけ離れたモンスターのような人間ではなく、いたって普通に日常を暮らしている人が、心の小さなブラックホールから、何かの拍子にするっと別の闇の領域に紛れ込んでしまった、というのが実態ではないだろうか。
そうであれば、元受刑者の社会復帰についても自身で心の病んでいる部分、傷んでいる部分の修復がまずは最初の一歩であろう。
自身の心の内を見つめ、病んでいる部分、傷んでいる部分を治癒し、回復し、そこから新たな方向に向かって進んでいく、というのが元受刑者の社会復帰の起点であろう。
そして、その「小さな闇」に気づくことが家族の回復への第一歩であり、それは何も加害者家族に限らず、「普通の」一般家庭にもいえることでもある。