実は・・・実話⑥-9

1つの事件での逮捕による拘留期間は20日間である。
その期間が過ぎて、さらに逮捕されると
(このことを再逮という)
さらに20日間拘留される。
A君は嬉野の事件で逮捕され、
さらに久留米の事件で再逮された。
つまりA君は40日間拘留され、
連日、法定の上限である8時間の取り調べを連日受けた。
取り調べ担当者は暴力団専門の刑事である。

A君は組長であるMとは1回しかあっていなかった。
刑事はA君を追い詰めていった。
「Mは生徒が来なかったらどうすっとや?と聞いてきたやろ?」
「生徒が来ない場合のリスクを聞いてきたやろ?」

刑事はどうしてもA君から
Mが生徒が来なかった場合の対応を聞いてきた、
という供述をとりたかったのだ。

しかし、そもそもA君がMとあったその日は
嬉野と久留米で教室を開校しようということしか決まっていなかった。

この段階でのリスクとは
生徒が集まらない場合のリスクであり、
生徒が出席しない場合のリスクは考えない。
そもそも刑事の言うリスクの意味が的外れなのである。

A君は懸命に説明した。
「いや、刑事さん
ここでいうリスクは生徒が来ない場合のリスクです。
この段階で生徒が出席しないことなど考えられない」
なにしろ生徒にとっては受講するだけで生活給付金が得られるのである。
この段階で欠席など考えられなかった。
いくら説明しても刑事は理解しない。
というより、
Mが生徒が欠席した場合の対応を聞いてきたことにしなければ
Mを有罪にもちこめなかったのである。

刑事はさらにA君を追い詰めた。

「Aさん、一番悪いのはMやろ?
一緒にあいつをやっつようや」

刑事はさらにとどめのセリフを吐いた。

「Aさん、思い出せんやったら
絞りだしてでも出せ!」

A君はこの刑事のセリフを
「Mを有罪に持ち込む供述を嘘でもいいからしろ」
という意味にとらえた。
A君は逡巡した。

「刑事さん、少し考えさせてください」
A君は昼食時間をとる間、考え込んだ。

ヤクザが無罪になるのはおかしい。
誰も供述しないのなら、
自分が差し違えても
Mを有罪に持ち込むべきだ。

A君は連日の取り調べで
ほとんど洗脳状態になっていた。
そしてA君は午後の取り調べで
このように供述した。

「Mが生徒が出席しない場合の対応を聞いてきたので
私は、出欠をごまかすこともできますよ、と答えました」

その日、警察の取調室に早速、検事がやってきた。
つまり、「しめた!」と思ったのである。
そして検事もその供述書を作成し
A君はそれに署名した。

まあ、こうやって冤罪はつくられていくんですね
なにしろ刑事自身もいってますから
「供述書はおまえの言う通りには書かない」と(笑)

A君はとうとう警察と検察のシナリオに
そった供述をすることに心は折れてしまった。
しかし、その後も
A君は嘘の供述したことについて
悩み続けることになる。

実は・・・実話⑥-7

A君は詐欺の容疑で逮捕された。
佐賀バルーンフェスティバル開催の前日であった。
翌日の新聞報道では、
久留米暴力団の二次団体組長の名前Mと
教室責任者2名及び生徒、
そしてA君の名前が掲載された。

暴力団が国の助成金目当てに
詐欺をしたことで全国ニュースとなった。

久留米の教室責任者のHはその組員であった。
嬉野教室の責任者はすでに組員ではなかっただ
かつて別の組の所属していた人物であった。
そしてその後明らかになったことだが
久留米、嬉野のそれぞれの教室責任者は
生徒募集の際、
「出欠をごまかしてやるから
名前だけでも応募しとかんね。」
といって誘っていたのである。

A君はそういう背景を全く知らなかった。
そもそも暴力団組長Mにあったのも
嬉野に住む知人Y君から
「久留米の地元有力者が
開校したいっている」といわれて会ったのである。

まあ、確かに地元の「有力者」ではある。
対立する組織があるとはいえ
地元最強の暴力団であるからだ。

逮捕されたA君、
その取り調べに当たったのは
特別組織暴力捜査班の係長だった。
通称「トクボウ」
組織暴力のチームの中でも選りすぐりのチームであり、
そのなかでも現場では
最も力のある係長である。

A君の地獄の取り調べが始まった。

To be continued・・・・

実は・・・実話⑥-6

出欠のごまかしはA君主導で組織的に行われた。
それでA君自身は何も得るものはなく、
結局、実刑判決を受けてしまうのだが、
つまり、出欠のごまかしが必要なのは
生徒が生活給付金を得るためであり、
出席率8割以上という要件を満たすためだったのである。

本来、生徒の出欠管理は教室責任者の業務であり、
A君がかかわることもなかったのだが、
講師の講義録や生徒の受講感想などの各種書類の整合性を保つためにはA君の協力なしにはできなかった。

そうした出欠のごまかしが日常化する中で、
嬉野校の教室運営に疑問を持った
国の監察が抜き打ちで行われた。

何しろ、嬉野校は1階に位置していたため
教師の内部は外から丸見えだったのである。
出席率は全員8割以上との報告に対して
外から見れば、
教室内部は5~7人しかいないという状況。
書類はごまかせても、実態はごまかしようがない。
A君はつくづく教室責任者Yの間抜けさかげんを恨んだ。

教室閉校後、2年後にA君は詐欺容疑で逮捕された。
佐賀市内であるバルーン大会開催日の前日であった。

そして、逮捕された刑事からA君は驚くべき事実を聞かされる。
「Aさん、久留米のMという男は〇〇会(久留米を本拠地とする暴力団)の二次団体の組長ですよ」
A君自身は嬉野に住む知人から「久留米の地元の有力者」として紹介されていたため、そういう事実は全く知らなかった。
そして、やくざがらみの事件であることが、さらに事を複雑にしていったのである。

A君の受難はここからさらに深刻化する。

to be continued・・・・

実は・・・実話⑥‐4

生徒の出欠をごまかすことに力を貸すことにしたA君。
しかし、そもそもA君自身、何もそういうことをしなくてもよかった。
なぜなら、出欠をごまかす必要があるのは生徒の方であり、
生徒の生活給付金(月額約10万円)の受給に必要となる
出席率8割以上の要件を満たすためだったからだ。

教室運営者には生徒の出欠の状況にかかわらず
生徒一人当たり6万円の運営費が国から支払われるからだ。
つまり、A君自身は何も生徒の出欠をごまかす必要はなかった。

しかし、結局、A君は生徒の出欠をごまかすことに力を貸すことになり、
かつ、A君は完ぺきな書類のごまかしに注力してしまった。

ここがAくんの間違いの始まりなのだが、
そもそもここで、普通に出欠をとっていても
A君自身には何にも困ることはないのだが・・・・。
このことが後に大きなしっぺ返しとなって
A君の身に降りかかることになる。

国に提出書類は
生徒の出欠表の押印、
講師の日報、
生徒の受講感想
それらに整合性がなければならない。
A君はその整合性をつけるよう
徹底して、生徒にアドバイスした。

A君、余計な作業まで引き受ける羽目になった。
普通に授業さえやっていればいいものを
すべての書類の整合性をまとめるのは
簡単ではない。

しかも、理解度の違いのある
まばらな出欠の生徒に
統一した授業をするのは至難の業である。

ここまで余計な負担をかけてまで
やる必要もないだろうに、
A君、生活給付金をもらえなくなるだろう生徒が不憫に思えたのだ。
A君、生徒たちに
書類のごまかしの指導までしてしまった。
つまり、書類のごまかしは
A君主導で組織的に行われたのだ。

しかし、A君には犯罪の意識は薄かった。
「生徒の生活給付金のため」と思っていたからだ。
この時点でA君のモラル意識は欠如していた。

To be continued・・・・・

実は・・・実話⑥-3

嬉野と久留米で就労支援事業の一環としてスタートしたパソコンとファイナンシャルプランナーの教室でA君は講師を始めた。

開校初日、それぞれの教室には30人ほどの生徒が出席したが、翌日から出席者生徒数は5~8人程度。

あまりの出席の悪さにA君は教室責任者であるXとYに電話で「ともかく生徒を出席させてくれ」と頼んだ。
何しろ、A君は今回の教室開校のため、4名ほどの講師を集めており、講師陣から「あまりに出席が悪い」と突き上げられていたからだ。
それに、たまに出席する生徒がいると、それぞれの理解度が異なり、まとまった授業ができず、結局、個人指導のようなスタイルになってしまうからである。

嬉野校の教室責任者であるXは連絡が取れるからまだましな方で、久留米校の教室責任者であるYにいたっては電話にもでないというありさまだった。

しかもYはA君の講師仲間に「認印を貸してくれ」と頼んでおり、A君は「Yは講師の認印を使って出欠をごまかす気だ」と直感し、Yに「人の認印を使うのはやめてほしい」と頼んだ。
また、A君は「遅刻は大目に見るが、欠席を出席にするのは糊塗できない。」とYにメールで送った。これが後の裁判で大きな意味を持つようになる。

月末、授業の進捗状況、生徒の出欠状況を国の機関に書類を提出しなければならない。
しかし、生徒の出欠状況は一部の生徒を除いてほとんどが出席率8割を満たしていなかった。
とはいえ、生徒のほとんどはまとまった収入がなく、今回の就労支援事業の教室に出席することで生活給付金を得ようとしていたことは間違いなく、だが、生活給付金を得るためには8割以上の出席がなければならない。

A君は生徒と教室責任者と共同で生徒の出欠をごまかした書類を作成することに協力した。
A君が一線を越えた瞬間だった。

to be continued・・・・